
大好きな愛媛県に恩返しがしたい。廃棄される魚の皮を革製品に?! 新たな産業を生み出す
魚の皮で革製品が作れることをご存知でしょうか?
今回のプロジェクトインタビューでは、破棄される魚の皮をなめし加工して、フィッシュレザーに生まれ変わらせる「水産大国愛媛の魚の皮で、革製品をつくってみよう!」プロジェクトをご紹介します。このプロジェクトは、魚の皮の再利用と、リタイア後の漁師さんのセカンドキャリアを生み出すことを目的としています。このプロジェクトのオーナーである多賀谷直樹さんは、現役の大学生。愛媛県中を西へ東へと駆け巡っている多賀谷さんにお話しを伺いました。
愛媛県に転校してきて、初めて見つけた自分の居場所
廣瀬:多賀谷さんは、高校生の頃から愛媛県について調査をしていたとお聞きしました。こういった取り組みを始めようと思ったきっかけを教えていただけますか?
多賀谷さん:高校生の頃から、愛媛県内の海や山、松山市内の市街地といった場所でフィールド調査をしていました。
そもそものきっかけですが、僕は両親の仕事の関係で幼少期から引っ越しを繰り返してきました。松山市に転校してきたのが小学校3年生の時なのですが、それまでに3~4回は引っ越しを経験しています。6~7月といったすでに人間関係が出来上がってしまっている中途半端な時期に引っ越しをすることが多く、なかなかクラスに馴染めない学校生活を送っていました。
しかし、松山市に引っ越してきたときは、今までずっと一緒だったかのようにクラスメイトに温かく接してもらって、「どうしてこんなにみんな優しんだろう」と不思議に思ったことを覚えています。
そして、それからどんどん愛媛県が大好きになってしまって、愛媛県から離れられなくなってしまったんです。(笑)
廣瀬:余談ですが、お父様は単身赴任に?
多賀谷さん:そうです。父には申し訳ないのですが、父はそれから単身赴任になりました(笑)。そしてもちろん、大学進学の時にも愛媛県を離れるという選択肢はありませんでした。
小学校の頃から愛媛県については調べていて、初めの頃は地域を学ぶといった教科書の延長的なものでした。高校生になって、外に繰り出してフィールドリサーチを始めました。そうやって、リサーチをしていると「何をしてるの?」って、みなさん逆に声を掛けてくれるんですよね。やっぱり優しい人が多いなって思いながら調査を進めていました。
そんな矢先、2018年に愛媛県の幸福度ランキングが37位と、下から数えた方が早いということを知りました。僕は、愛媛県に引っ越してきてすごく幸せを感じているので、当然、県民の皆さんの幸福度も高いだろうと勝手に思っていただけにかなりショックでした。

ミカン農家さんからお話を聞いている高校生の頃の多賀谷さん。(右端)
廣瀬:愛媛県民として、ランキングの低さに私も驚きました。そこから多賀谷さんの気持ちはどう変わっていったのでしょうか?
多賀谷さん:なぜ、こんなに幸福を感じている人が少ないんだろうと思い、その理由も含めリサーチし始めました。たくさんの愛媛県の人たちが幸せを感じられるようになるために、自分の力で何ができるだろうかと考え始めたのもこの頃です。
漁師さんたちとの出会い
廣瀬:海、山、街中など県内の様々なところでフィールドリサーチをしていたとのことでしたが、今回の多賀谷さんのプロジェクトは漁業(海)に携わっている人たちに対しての取り組みです。その理由を教えていただけますか?
多賀谷さん:色々と愛媛県を見ている中で、八幡浜漁港の市場にリサーチに行かせていただいたことがありました。市場というのは、基本的には一般の人が入りづらい空間です。そんなところにふらっと行って「リサーチです」と言っても、学生の自分が勝手にしているもので、お話を聞くのは難しいだろうなと思っていたのですが、ダメもとで行ってみたんです。そしたら、漁師さんたちが僕の取組みに興味を持ってくれて、逆に気に掛けてくださるようになり、ここでも愛媛県の方の優しさを感じました。
廣瀬:そこで、「漁港で働く皆さんのために何かできないかな?」と考えたのでしょうか?
多賀谷さん:そうです。僕の行動の原理って、基本的にそんな感じで(笑)。優しくしてもらったり助けてもらったりした時に、恩返しとして何かできないかな・・・って考えるんです。小学校で転校してきた時、クラスメイトのみんなが優しくて、クラスメイトには当然ですが、優しい人が多い愛媛県に何かしたいと思ってフィールドリサーチを始めたのと同じだと思います。

多賀谷さんがよく通っているという八幡浜魚市場
魚の皮をフィッシュレザーへ
廣瀬:なるほど、そこで漁師さんたちと仲良くなって、漁師さんの悩みや課題などを聞くようになったのですね。
多賀谷さん:そうです。“ずっと漁師をしてきて魚とは関わって生きていきたいけど、体力的にしんどくなってしまっている”という悩みや、魚の皮を破棄するのがもったいないということをお聞きしました。その課題なら、僕も何かお手伝いができるのではないかと思ったのがきっかけです。
そこから、魚の皮を使って何かできないかなと考え始めました。
廣瀬:そこから破棄される魚の皮を利用すること、漁師さんのセカンドキャリアについて考え始めたのですね。フィシュレザーに加工するアイデアはどこから?
多賀谷さん:始めは鱗(うろこ)を揚げて食べる、といったことも考えてみたんですけど、ちょっと衛生的にクリアしづらくて。
見たことも聞いたこともなかったんですけど、皮なら革になるんじゃないかな・・・って思い、調べてみるとなめし加工を施して魚の「皮」を「革」にした「フィッシュレザー」という革があることを知りました。
廣瀬:魚の皮を加工して「フィッシュレザー」として生まれ変わらせる発想は、もしかすると普段から魚を扱っている漁師さんだと発想しにくい考えかもしれませんね。何よりも、漁師さんたちの力になりたいと考えている多賀谷さんだから思いついたことかもしれないと感じました。

実際に、市場などで魚の皮の破棄についてリサーチを行っている。
エールラボえひめを通して、前進していくプロジェクト
廣瀬:多賀谷さんは、エールラボえひめがスタートして早い段階でプロジェクトを立ち上げてくださっていました。エールラボえひめを利用してよかったなと実感してくださっていることはありますか?
多賀谷さん:たくさんあります(笑)。エールラボえひめの存在は、4月にスタートする前から知っていました。エールラボえひめでは、もちろんプロジェクトを成し遂げるというのも重要なのですが、コミュニティ内で刺激してもらっているということも自分にとっては大きなことです。
立ち上げた頃は当然ですが、プロジェクトに参加してくれるメンバーは0人でした。しかし、今は10人(2021年8月19日現在)の方がメンバー、仲間になってくれています。僕のプロジェクトを知って共感してくれてメンバーになってくれる、それだけで十分嬉しいことなのに、漁業関係に詳しいメンバーの方からは技術面のアドバイスをいただいています。
実は、先日、本当にエールラボえひめでプロジェクトを立ち上げてよかったと思うことがありました。
東京都立皮革技術センターの職員の方にオンラインで、僕が考えているプロジェクトは技術面、素材面のレベルで実現可能かというアドバイスをいただく機会があったんです。
エールラボえひめのディレクターの金澤さんが、皮革技術センターにパソコンを持っていき、現地の職員さんと繋いでくださったのです。
僕自身、まだ学生でこういった行政機関の方と直接お話をさせていただくことはちょっと難しい部分があって。職員さんにはお話を聞いてくれる気持ちはあっても、企業・組織じゃないとダメなど、そういった面でのハードルがあったりします。今回のように行政機関の専門家の方から直接お話を聞けるという機会は、エールラボえひめ、愛媛県のバックアップがなければ難しかったと思います。
専門家と話すことで明確になった、プロジェクトの進め方
廣瀬:それはすごいですね!実際に専門家の方からお話を聞いていかがでしたか?
多賀谷さん:まず、技術的に可能だということが分かってホッとしたのと同時に、やることが明確化されました。フィッシュレザーを使ってどんな商品を作り、どのような価値を付けて、そして誰に提供していくかという商品の出口のところについてアドバイスをいただきました。
また、商品開発などに対しては費用がかかってくることなので、それに対して、ディレクターの金澤さんからエールラボえひめの認定プロジェクト制度についてのアドバイスもいただきました。
こんな風に、プロジェクトを達成するために愛媛県の職員さんやディレクターさん、コミュマネさんたちがサポートしてくれ、どうアプローチするのが一番いいのかを一緒に考えてくれるんです。
さらに、皮革技術センターの職員さんが愛媛県は養殖業が盛んな地域なので、その魚の皮が使えるのが魅力的とおっしゃってくださいました。産業が進むにつれて皮を使うために天然魚を乱獲しなくていいのが魅力だという意見でした。
廣瀬:それは、皮革技術センターの職員さんも多賀谷さんのプロジェクトが大きく成長する可能性を感じられているから出てきた意見だと思います。破棄される魚の皮を使った新しい産業の創出、漁師さんのセカンドキャリア、どの方向を見てもみんなが喜ぶプロジェクトですね。
多賀谷さん:はい! 僕自身、こういうプロジェクトしかしたくないです。
愛媛県を幸福度ランキング1位に、そして日本を1位に
廣瀬:多賀谷さんのこれからの目標を教えていただけますか?
多賀谷さん:それはもちろん、愛媛県の皆さんがさらに幸せを感じられる地域にしていくことです。フィールドリサーチで、地元の人とお話をさせていただく時に、「0が幸せを感じない、10が幸せマックスとなった時に今の段階ってどこですか?」という感じで聞いたりするんですけど、お互いの関係ができてない時って「5かな?6かな?」みたいに平均的な数字しかみなさんおっしゃってくださらないんですけど、仲が良くなってくると「昨日は4だったけど今日は6かな?」みたいに答えてくださって、「じゃあその差の2って何ですか?」みたいな感じで、その方が抱えている課題を聞いていったりするんです。
そんな風に質問した時に、みんなが迷わず10って言ってくれるような地域になったらすごく嬉しいですよね!
廣瀬:目指せ、幸福度ランキング1位ですね!
多賀谷さん:はい!もちろんです。日本って先進国の中で、世界の幸福度ランキングがすごく低いんです。もちろんいろんな人がいて、ランキングが全てではないのは分かっていますが、日本が幸福度ランキング1位になれるように、まずは愛媛県から始めていきたいです。
- 団体の概要
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フィッシュレザープロジェクト
- プロフィール
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多賀谷 直樹
2000年生まれ、愛媛大学社会共創学部3年生。
小学校3年生の頃に愛媛県に引っ越してきて以来、愛媛県の人の優しさに触れ愛媛のトリコに。愛媛県のリサーチは、小学生の頃からスタート。東・中・南予と実際に様々なエリアに足繁く通い、足で集めた資料、地元の人の声をもとに、その地域の課題を解決するために様々な取り組みを行っている。防災士という一面も。
- プロジェクト紹介
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水産大国愛媛の魚の皮で、革製品をつくってみよう!
参加者募集中
個人
【愛媛における水産社会の現状】 魚類海面養殖にて24万7千トンを誇り、全国1位の水産大国愛媛では、廃棄される魚の皮の廃棄量が多い。従事者が多いにも拘わらず、漁師のセカンドキャリアが構築されていない。 【誰の】 ①漁師さん ②地球環境に対して 【どんな課題】 ①リタイアされた漁師さんが魚と関われるセカンドキャリアがない ②海洋廃棄物による海洋汚染、海洋廃棄コストによる漁業者利益の逼迫 【どんな方法で】 ①廃棄される魚の皮を動物のなめし革のように加工し、靴やバッグ、財布、名刺入れ等に して販売していく。 ②海洋廃棄物低減、低減、引退漁業者のセカンドキャリア構築等を実施いたします。 【プロジェクトの現段階】 イ:廃棄される魚の皮の入手方法・皮から身を削ぐ工程 ロ:ウロコを取る工程 ハ:乾燥工程 二:素材表面加工工程(染色・ワックスがけ) ホ:革製品の縫製工程 【まだできていないこと】(皮から革へなめし加工の技術を持たれている方へ) へ:脱脂と、臭いを完全に除去する工程の確立 皮が溶けるか、匂いが完全に除去できるか、魚種や個体による差異を踏まえた濃度 や漬ける時間の組み合わせを発見すること 【目的】 「課題を解決する一役を買う」革製品として、完成させたい 【やっていただきたいこと】 ト:製品デザイン チ:プロモーション(ブランディングを含む) リ:革製品の型紙 ヌ:販売方法(ブランディングを含む) ル:数値計画を手伝っていただける方 【まとめ】 廃棄される魚の皮を動物のなめし革のように加工し、靴やバッグ、財布、名刺入れ等にして販売していくプロジェクトです!海洋廃棄物低減、海洋廃棄コストによる漁業者利益の逼迫低減、引退漁業者のセカンドキャリア構築等を実施いたします。
所属コミュニティ
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主担当者
多賀谷 直樹
プロジェクト実施時期
2019年
活動エリア
愛媛県全域