
「優しさの見える化」 車いすユーザーが街に出るきっかけを目指して
飲食店が店先にステッカーを貼ることで、車いすユーザーやベビーカーを利用する人々に対して「お手伝いが必要な場合は気軽に声を掛けてくださいね」という意思表示ができる、心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」。2020年から少しずつ活動を開始してきたこのプロジェクトは、初期目標が70店舗だったのにも関わらず、現在は200店舗を超える店舗にご賛同いただいています。今回のインタビュー記事は、このプロジェクトの発起人で、ご自身も車いすユーザーである石川水緒さんにお話を伺いました。
車いすに見慣れてないなら、これから見慣れてもらえばいい
廣瀬:心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」は、「積極的にお手伝いをします」という飲食店側の気持ちを示すことができ、車いすユーザーの方も一目で認識ができる、分かりやすくて画期的なアイデアだと思います。どのような経緯でこのプロジェクトを始めることになったのか教えていただけますか?
石川さん:もともとは3年前に『車いすで街歩き』というイベントを開催したことがきっかけです。そのイベントには10名の車いすユーザー、30名の健常者が参加してくれました。昼食はグループごとに街中の飲食店で自由にとっていただいたのですが、「入りやすいお店の目印があれば嬉しい」という感想がイベント後に出てきたんです。この会話が心に残っていて、それがこのプロジェクトを始める時のヒントになった感じですね。

「車いすで街歩き」のイベントの様子。健常者も車いすを体験。
廣瀬:なるほど、イベント中に車いすユーザーから出てきたちょっとした一言がヒントになっているのですね。石川さんは、もともと何かを企画することが得意なのですか?
石川さん:全然、得意じゃないです(笑)。ただ、人を巻き込むのは得意みたいで、顔の広い人とか友人を巻き込んで、人を紹介してもらったりしながら開催しました。イベントのアイデアとしては、車いすユーザーと健常者が一緒に街を歩くという他の団体がしているものを参考にさせてもらいました。
助けてくれない人は冷たいんじゃなくて、どう手助けをしていいか分からないんだ!
廣瀬:この「車いすで街歩き」のイベントを開催しようと思ったきっかけは?
石川さん:私は6年前に車いすを使う生活になり、はじめに大分県別府市にあるリハビリ施設で約1年半リハビリをしていました。別府市には私がリハビリをした施設の他にも複数そういったリハビリ施設があり、また障がい者が働く大きな会社もあります。別府市って障がい者の人数が多いんですよね。
別府市にいる時は、街中でちょっと困ったことがあっても、みんな障がい者に見慣れているから、何も言わなくても助けてくれたんです。自分から声を掛けて助けてもらうことは全くありませんでした。ところが、松山市では、困っていると助けてもらえないどころか、見てはいけないものを見てしまったかのように目をそらす・・・。そんな感じで寂しさにも似た違和感がありました。
ある雨の日、車いすのゴム部分が濡れてしまい滑って動けなくなってしまったことがありました。雨に濡れながら30分くらい立ち往生していたのですが、誰も手を貸してくれなくて、結局、自分一人でなんとかしたんですけど、そのことに結構傷ついてしまって・・・。当時、車いすバスケをしていたので、他のメンバーに話しても同じような経験をしていて、「みんな松山の人は冷たい」って言うんですよね。
「なんでだろう」と考えているとき、両親と少し揉めてしまって家を出て2ヶ月くらいホテル生活をしたんです。それまでは、ヘルパーさんに手伝ってもらっていたことをホテルの人をはじめ、いろんな人にすごく助けてもらいました。この経験から「街中には優しい人もたくさんいる、どう手助けをしたらいいのか分からないだけなんだ!」って分かったんです。
積極的に外出するようになって芽生えた想い
石川さん:その後、積極的に外出できるようになり、私の場合はバスを利用して自由に出かけていました。すると、街中で「家族が病気とか車いすになって引きこもってしまって」とか、全く知らない人に色々と話しかけられるんですよね。みなさん「すごくしんどい」みたいに言うのですが、私は「車いすの生活になってもできることはたくさんあるし、そんなに絶望することじゃないぞ」と思っていて、今の自分の考え方と、世間の考え方にはギャップがあるなと感じていました。
まずは、引きこもってしまっている車いすユーザーの人にも楽しめることがたくさんあると気が付いてほしいし、街中の人には車いすに見慣れてほしいし、困っている車いすユーザーがいたら声を掛けてほしいと思って。それなら、健常者と車いすユーザーが街中で交流できるイベントを開催してみようと思ったのがきっかけです。

気軽に友人と外食を楽しむ石川さん(左端)。
廣瀬:はじめは、松山の人は手伝ってくれなくて冷たいって思っていたけど、冷たいんじゃなくてみんなどうしたらいいかが分からないんだっていう考え方にシフトしていったんですね。そのイベントは別府市から松山市に戻ってどのくらいの期間で実施したのですか?
石川さん:帰ってから半年~1年くらい。けっこう思いきったなって、今になって思います(笑)。
ハード面を変えるのではなく、今ある環境を活かしきりたい
廣瀬:イベント後の反響はどうでしたか?
石川さん:イベントに参加してくれた人からは「面白かった」や「障がい者トイレを探すようになりました」などといった反響はいただいたのですが、そういうイベントに参加する人ってやっぱり福祉関係の人が多いんですよね。これからはその分野に関わっていない人たちと繋がりを持たなくちゃいけないと逆に課題を感じました。
何かをするならば、自分ができて、なおかつ人がしていないことをやらないとこの状況は変わらないなと思っていました。バリアフリーマップはすでに作っている人もいるし、ハード面・設備に関してもしっかり動いている人もすでにいる。そこを私が新たに開拓する必要はないと考えました。
何かできることはないかとリサーチしていると、関東でこの心のバリアフリープロジェクトを個人で行っている方を知りました。イベントでの「入りやすいお店の目印」という言葉が蘇ってきて、松山でも心のバリアフリープロジェクトをやろう!と決意して、その方に連絡をしました。するとすぐにステッカーを100枚無料で送ってくださり、やるからには後には引けない、「この100枚だけは、なんとか配り切ろう」と心に決めました。
外に出かけるきっかけに
廣瀬:飲食店は実際に外に出るきっかけにもなりやすくて、その上で「入りやすい目印」があるとそのお店に行ってみようかという気持ちになりますよね。実際にプロジェクトを始めてみてどうですか?
石川さん:反響がありすぎてびっくりしています。まず、100枚は配り切ると決めていましたし、70店舗を超えたらステッカーを貼ってくれているお店が検索できるwebサイトを作ろうと思っていました。現在はその目標を大きく超えて200店舗近くのお店に貼っていただいています。

店舗の入り口に貼られたバリアフリーのステッカー。ハートとクローバーでこころのバリアフリーを表現している。
廣瀬:石川さんの熱い想いに共感する人がたくさんいるんですね!
石川さん:後先考えずに始めてしまうので『最初に海に飛び込むペンギン』って言われたりします(笑)。熱い想いと言っていいのかはわかりませんが、今の状況を変えたいというよりは今あるものを見て欲しいなって思っています。
廣瀬:というのは、今の状況を変えたい、ハード面を変えたいというのではなく、「今あるこの状況を最大限に利用していこうよ」ということでしょうか?
石川さん:はい。実際、ハード面で困ったことはないんです。行けないところは最初から行かないですし、設備や施設の仕様を変えるというのはいつになるか分からないことなので。それだったら、今の状況を大事にする方がいいと思うんです。
廣瀬:「優しさ」や「思いやり」というのは杓子(しゃくし)定規では測れないですものね。
石川さん: そう思います。「人が冷たい」って感じている人って、何かで傷ついたり、辛さを経験しているからだと思うんです。で、その「辛さ」を癒すのって何なのかなって考えたら、やっぱり「優しさ」なのかなって思ったりします。
ステッカーは必要なくなればいい
廣瀬:ステッカーを配布する枚数が増えるごとに「優しさ」が広がっているように感じます。
たてヨコ愛媛さんのほか、たくさんの方がプロジェクトに関わっている中で、石川さんはエールラボえひめでもプロジェクトを立ち上げてくださいました。石川さんがエールラボえひめに期待していることは何でしょうか?
石川さん:エールラボえひめで期待していることは、福祉施設に、心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」のフライヤーなどを置いてもらって、福祉関係の施設を利用する側の人に広めてほしいんです。そういった公共施設にたくさんの知り合いがいるわけではないので、そこは愛媛県の力を借りたいです。多くの人に知ってもらえるように手伝っていただきたいです。

たくさんの人がステッカーの配布に尽力している
廣瀬:福祉施設を利用する人の目に触れて、必要な人に必要な情報が届くシステムになるといいですよね。これからどのようにこのプロジェクトが広がっていけばいいと思いますか?
石川さん:これからステッカーを貼ってくれているお店を紹介する、心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」のwebサイトをオープンさせるのですが、正直こういった活動自体も、必要なくなればいいと思っています。わざわざ意思を表示しないと気がついてもらえないって悲しいなって。単なるマーク、単なる検索サイトになるといいなって思っています。
心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」のステッカーは、車いすユーザーだけではなくて、ベビーカーを使う人たちにも使ってもらえると思っています。
どこに行っていいか分からなくて引きこもってしまっている人は、もったいないと思います。そういう人がどのくらいいるのか分からないのですが、このステッカーが外に出るきっかけになるといいなって。実際に動いてみて、必要な人に届いてほしいと思っています。
- 団体の概要
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心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」
- プロフィール
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石川水緒
愛媛県宇和島市出身、たてヨコ愛媛メンバー。
高校卒業後、福岡、兵庫、京都、北九州を経て2014年~松山市在住。
現在はwebアクシビリティ検査員をしつつ、車いすマラソン選手やイベントプランナーとして幅広く活躍する。様々な視点を持つこと、そこから物事を考えることを心がけている。絵を描くこと、お酒や音楽が好き。
- プロジェクト紹介
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心のバリアフリーステッカーPJ「優しさの見えるまちづくり」
参加者募集中
団体
車椅子ユーザーである石川水緒を代表として、彼女の想いから始まったプロジェクトです。 店先にステッカーを貼ることで、「手伝いが必要なら気軽にどうぞ」という意思表示ができれば、車椅子ユーザーやベビーカーを押す子育て世代等、誰もが気兼ねなく入れる「優しさの見える化」を図れます。 ステッカーを目にする=優しさに触れることで、障がい者に限らず、街中に明るい気持ちが溢れたらいいな、との想いで活動しています。
所属コミュニティ
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主担当者
岡野 祐介
プロジェクト実施時期
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活動エリア
愛媛県全域